「太刀川さん太刀川さん」
「どうしましたさん」
「いやどうしましたじゃないから。なんなの、ねぇなんなの?」

 ひくりと顔を引き攣らせいった言葉に太刀川は普段と変わらない気の抜けた表情で返してきた。あっきれた。流石に信じらんないわ。

「これで何度目かわかってるの?」
「だから何が?」
「あんたと食事に来て私が支払いをした回数」

 はっきり「しまった」と言いそうな表情を見せながらもそれを声には出さず、太刀川はアイスコーヒーのグラスに直接口をつけごくごくと飲み干した。
 はぁとため息を吐きながらミルクティをストローで意味もなく混ぜる。別にご馳走するのは構わないけど、いくらなんでもこれだけ財布を忘れてるとわざとやっているんじゃないかと勘ぐってしまう。―――しかし私のSEは「そんなことない」と告げている。どっちが正しいのかしらねと思いながらも後者の信憑性は非常に高い。生まれたときから付き合っているこの直感は嘘をつかない。

 ストローに口をつけ一口だけミルクティを飲み、そっと正面の太刀川を見る。申し訳なさそうな表情ではあるが、正直反省しているとはどうにも思えない。きっとまた数日後には似たような状況が起こりうるだろう。迅じゃなくてもそれぐらいはわかる。
 いい加減にしてくれと思いながらも、結局仕方ないかと諦めてしまうのがいけないのかしらね。
 それでもまぁ、惚れた弱味と言うやつだ。ついつい甘やかしたくなってしまうのは仕方のないことだと思う。
20160811 ... 財布 《title:OSG