「似合っているじゃないか」
 ばったり。本当にばったりと出くわしたハルさんこと真壁ハルオミは、出会った時から変わることのない笑顔でそう言いのけた。
「この髪色に、ですか?」
 何度私が嫌いだと言っても、そのたびに彼は綺麗だと言う、この忌まわしい髪。ずっと短くしていたのだが、こんなものでも綺麗だと言ってくれる人がいるならばと伸ばし続けた髪は、彼と過ごした日々の長さを表すように長くなっていた。アリサが喜んで手入れするんだよな、と思っていれば、ハルさんが少し不満そうな顔をしたので意識をそちらへ戻す。
「お前自身に、だ。は白が似合う。ついでに言うと髪色には前までの軍服の方が似合っていたぞ」
 白い髪が映えるからな。これだと同色で目立たない。不満そうにそう語る彼は、私よりも私の容姿を気付かう。別に嫌ではないが、なんとなくくすぐったい気持ちになるこの感情にどのような名をつけるべきか決めかねる。
「ゆりかごは安心感を与える“モノ”でなければならない。だから白い隊服なんじゃないですか?」
 もっとも、隊服のデザインが決まったのは隊名が決めるよりも前のことではあるが。
「それでもなあ……」
 私を上から下まで眺め、それでもまだ悩むハルさんは一体私の何なのだ。保護者か。困ったように笑えば白い髪がサラリと揺れる。
「それだ」
 突然真顔になり口を開いたかと思えば、次の瞬間には私の手を取り歩き始めたハルさん。「何処へ行くんですか!?」と問うも「いいところ」としか答えてもらえない。もう、なんなのよ。

 連れてこられた先は、外部居住区の雑貨屋。神機使いということがばれぬようコートを着せられたので外に出ることはわかったが、何のようがあってこんなところに?
「……これなんかどうだ」
 何かを手に取ったかと思うと、それを私の頭に軽く当て「おお、いいじゃないか」と一人で完結し肯く。これください、と買い物時のテンプレートのような科白を吐くと、店員はそれを包装しハルさんに渡す。彼はそれを今度は私に渡し「これなら隊服にも髪色似合う」と笑った。
 プレゼント、ということだろうか……? はあ、と首を傾げながらもそれを受け取れば、満足げに笑ってくるりとアナグラの方を向いた。
「用も済んだし帰るぞー。長く連れ出すとボディーガードがうるさいしな」
 最後の言葉がよく聞き取れなかったので聞き返せば、なんでもねえよ、と髪をくしゃくしゃと撫ぜられた。やっぱりハルさんって、よくわかんない。

 アナグラに戻るとすぐさまハルさんは極東に戻っていたアリサたちに引っ張って行かれた。仲がいいな、なんて思うと同時になんだかもやもやとした気分になったが、その気持ちを無視し一度自室に戻る。ヒバリには暫く支部待機と言われたことだし。
 包装紙を開くと、そこから出てきたのは可愛らしいデザインのバレッタ。伸びてきた髪を束ねるのに丁度良いサイズのそれは、贔屓目に見ずとも私によく似合っているように思えた。
 私のために、これを買ってくれた。そのことを思い出すと、頬が紅潮するのが分かった。
「ありがとう、ございます」
 後でちゃんと、お礼を言わないとね。
20141130 ... 花であり、宝石