きらきらと輝く髪を綺麗だと褒めれば、は顔を顰め「こんなもののどこが……」と毒づいた。本当に綺麗だと思ったからそう言ったのだと笑えば彼女はもっと顔を顰める。
「こんな髪、ない方がましです」
 これ以上俺とは話したくないと言わんばかりに、彼女はそう告げるなり踵を返しその場から立ち去った。
 どうして彼女ばかり構うの? ―――綺麗な髪を嫌いだという彼女の表情が寂しそうだったから。俺はきっとそう答えるだろう。

 髪を褒めたあの時、彼女は俺と話すことを嫌そうにしていたし、きっと次に話すのはもっと後のことだろうなと思っていたのだが、以外にもその時は早く訪れた。自室からエントランスへ向かうエレベーターに乗り込んだとき、丁度彼女も乗っていたのだ。これはなんたる運命、だなんて思いながら嫌そうな彼女の顔は気にしない。ほんの少しくらい図々しくいかなければ女性との仲は発展しないのだから。
 彼女の真っ白い髪は身に付けている軍服風の戦闘着に映え、やはり綺麗だと思っていれば、それを察したのか彼女はぷいとそっぽを向いてしまった。どうすれば仲良くなれるのか、これは恥を忍んで彼女と同じ部隊に所属している『先輩』に聞くべきか、なんて思ったその時。ガクンと大きくエレベーターが縦に揺れ、動きを止めた。よろけた彼女を咄嗟に支えれば驚いたように瞬きをし「ありがとうございます」と小さな声で告げた。礼儀はきちんとしているらしい。
 彼女から手を離し「気にするな」と言おうと口を開いたその瞬間。カチカチ、とケージ内の照明が何度か点滅し、やがて消えた。一切光を通さないつくりになっているのか、完全に暗闇になってしまった。これでは右も左もわからない。おいおい、榊博士が何かしたのか? と、自分が極東に来る少し前に支部長となった彼を思い出しつつ、「大丈夫か」とに問いかければ。
「っあ、……ゃ」
 小さなうめき声と共に、彼女が動いたのが分かった。そしてそれきり黙り込んでしまう。―――暗闇が、怖いのか? 安易にそう考えてしまったが、いつまでたっても返事をしない彼女にその考えは正しかったのだと直感する。
?」
 できるだけ柔らかく彼女の名を呼ぶも彼女は何の反応も示さない。漸く暗闇に目が慣れてきたので、いつになったら電気は復旧するんだと苛立ちながら、だがそれを悟られぬよう、怯えさせぬよう、恐る恐るの方へ歩み寄る。ビクリ、と大きく震えたのが分かったがそれでもこのままにしておくわけにはいかない、と言い訳のようなものを自分にしながら彼女の隣に座り方を抱き寄せる。
、大丈夫だ。すぐに明るくなる」
 触れてみて彼女が震えていることが分かった。そんなに怖かったのか、とすぐに近くに来てやらなかった自分を責めつつ、頭を自分の方へ寄せ赤子をあやすようにぽんぽんと叩く。
「大丈夫。大丈夫だから、な」
 そうこうしているうちに彼女の体から震えが消えた。外に出たら、と同部隊の彼女たちが待っているだろうなと思うと気分が沈みかけたが、それでも今は自分が彼女を独り占めできていると考えると少し気分がいい。
 それから、ああそうだとこの暗闇の中で一つ思ったことを口に出す。

「お前は嫌かもしれないが、俺はその髪、お前自身を守る『光』のようだと思うぞ」
20141130 ... あなたの知らないリュミエール 《title:けれどせめて
 第一部隊長な彼女。通称隊長。そしてアリサとサクヤは彼女のセコムです。あと先輩も。