「こんにちは、」
カルデアの廊下を散歩がてら歩いていれば、後ろから可愛らしい声が聞こえてきた。どこかで聞いたことあるような気がするけど、あれー?と首を傾げつつ後ろを向けば。
「ぎ、ギル!?」
「こんにちは。お元気そうで何よりです」
英雄王ならばありえないほどの礼儀正しさ。
幼少期のギルガメッシュこと子ギルがそこにはいた。
「ど、どうしたの!? あの子ついにギルを召喚したの!? ギルはギルで若返りの薬のんじゃったの!?」
子ギルに目線を合わせるために膝立ちになって彼に詰めよれば、ギルは朗らかに笑って「落ち着いてください」と言ってきた。
いや、これ落ち着いている場合じゃないでしょう。冬木の英雄王とは異なる彼であったとしても、カルデアで再会したいなぁ、と思っていたギルガメッシュがまさか私に会うよりも前に子供の姿になってしまっただなんて! どうしてあの子が、マスターがギルを召喚するその場に私はいなかったんだ! 後悔してもしきれない。悲しすぎて私は涙が出そうだよギル。私たちの絆はその程度のものだったのかい……?
「大人の僕が召喚されたのではなく、僕として召喚されたんですよ」
言っている意味がよく分からない。
首を傾げていれば、子ギルは困ったように「まぁいろいろとあるんですよ」とわらった。なんだか誤魔化されたような気もするけど、セイバー、アルトリアにとってのリリィみたいなものなのだろう。
なるほどねぇ、と納得し頷いておいた。
それではつまり、まだ私のよく知る英雄王、アーチャー・ギルガメッシュは召喚されていないということなのか。
いつになったら彼は来るのだろう。……どうしよう、召喚に応じる気がないとしたらすごく困る。すごく寂しい。
あんなことやこんなことをした仲(?)だというのに、全く持って薄情な男だ。
―――と、そんなことを考えていると、子ギルが眉を下げて私を見ていた。
「一応、冬木で貴女と共に過ごした日々のことは覚えているので、楽しみにしていたんですけど……嬉しくなかったですか……?」
不安げな声に私はうるうると瞳に涙がたまるのが分かった。
「そんなわけない、嬉しいに決まってるよ! まさか子供姿での召喚なんてものがあるとは思ってなかったから驚いていたんだ。ギル、いいやギルくん。カルデアに来てくれてありがとう。君が来てくれて私はすごく嬉しいよ」
そういってやれば、子ギルは花が綻ぶような笑みを見せてくれた。
その笑顔にハートを撃ち抜かれそうになりながらも、成長したら我様暴君になるんだぞわかってるのか、と心を落ち着かせる。
大人のギルが来ないのは寂しいけれど、子ギルとだって長い時間を共に過ごしたのだ。
冬木の聖杯戦争に参加したサーヴァント以外に知り合いのいない私としては、こうやって知り合いが増えていくことがとても嬉しい。
―――そんなことを考えるってことは、意外と私は寂しかったのかもしれないな。
だとすると、ほんと、来てくれたのがギルくんで良かった。お願い、一緒にいてね。せめて私が寂しくなくなるまでは。