天界にあるとある一室に来た私は、私をこの部屋に呼んだ張本人ことヴィヴィアンの現在の姿に額を押さえた。
 しかし彼女はそんな私の様子には一向に気付いてくれない。鼻歌混じりに何やら作業をしている少女の姿をしていながら私やライルにとっては母とも言える彼女の邪魔をするのは非常に申し訳ない。

「いや、そんなしてないでいいから早く聞けよ」
「あのねライルちゃん、どうして私がヴィヴィに意識を向けていたと思ってんの? 貴方のその姿を見ないために決まってるでしょう。なんでまだその格好なのよ……」

 ライルちゃんことお星さまは、どういうわけか、先日のクリスマスデートと変わらない格好でヴィヴィアンの横に座っていた。
 嫌でも視界に入ってくるからほーんと困っちゃうわよね! 何考えてんのかしらこの男は!

「俺だって脱ぎてぇよ!」
「じゃなんで脱がないのさ。もしかして気に入っちゃった?」

 ライルははっきりと口元を引き攣らせた。うん、そうよね、気に入ってるわけなかったね。さすがに今のは謝るわ。

「ロキの魔法はそんなに強力?」
「もうクリスマス終わったのにな……どうしてこうも……」

 苦笑交じりにライルの、それからヴィヴィアンの傍に近寄る。
 はぁ、と重苦しくため息を零したライルの頭……というか星?を撫でてやっていれば、そこでようやくヴィヴィアンは私に気付いてくれた。

ちゃん、来てくれてたんだ」
「ええ、まあ、そうね」

 ぱぁっと愛らしい満面の笑みを浮かべる少女に眩しさを覚えつつ返事を返せば、ヴィヴィアンは鼻歌混じりに作業していたものを「じゃーん!」と見せてきてくれた。
 ―――うわあ、ヴィヴィアンはすごく可愛いのにどういう反応していいのか全く分からないわ。どうしよう。本当にどうしよう。
 ライルの頭(星)から手を離し、ついでに彼から目を逸らし、それからヴィヴィアンの手の中のものからも目を逸らした。むしろこう言い換えようか。私は遠くを見た、と。

、頼むから現実逃避だけはやめろ」
ちゃん、ちゃんとこっち見て。ね、可愛いでしょうこのライルちゃんたち!」

 切実な声を上げるライルと、自信満々に声を弾ませるヴィヴィアン。
 この親子、すごいな。見事なまでにヴィヴィアンの手の中のものへの反応が真逆だわ。

「…………ヴィヴィアン、これ、ヴィヴィが作ったの?」
「そうだよ。ふふ、ライルちゃんにはかなわないけどすごく可愛くできてると思わない? このお星さま!」

 花が綻んでいる。むしろヴィヴィの周りに花が咲き乱れていそうね。
 現実逃避に走りたい気分になりながらも、ライルにがっちりと頭をヴィヴィの手の中のもの―――デフォルメライルスター人形に合せられているせいで、現実逃避に走るには目を瞑る以外に行動をとれなくなっていた。
 目を閉じたらヴィヴィ、悲しむだろうなぁ……。そう考えてしまったら私にとれる行動なんて一つしかなくって。
 ええ、ええ、しっかり見ましたよ。ライルちゃん人形を!
 「最初のいくつかは急ごしらえだったせいでこのあたりが歪になっちゃってね」だとか「こっちのぬいぐるみは目元が本当にライルちゃんそっくりなの」だとか色々ヴィヴィはいっているけど全く頭に入ってこない。どうしよう。吃驚するぐらいヴィヴィの言葉が入ってこないぞ……。

 そんな私に言えることはというと。

「ヴィヴィアン、お願い、この人形いくつか譲ってもらえないかな」
「気に入ってんじゃねえよ!」

 ライルの鋭いツッコミが飛ぶ。
 あらやだそんな私がいつライルちゃん人形を気に入ったって言った? 一言もそんな口にしてないわよ。

「みんなこの人形気に入ってくれたみたいで、まだまだ作る予定だからいるだけ持って行っていいよ!」

 ヴィヴィが渡してくれたスターライルちゃん人形をぐにぐに弄りながら、うふふと笑えば、ヴィヴィアンもまたうふふと笑った。
 ライルちゃんは疲れた気に肩を落としていたけど、貴方がしっかりと私に人形を見せなければこんなことにはならなかったのよ、たぶん。だからまぁ、諦めなさいな。これも平和の象徴よ。こんな人形、平和なときにしか作れないんだから、これが存在していることを喜ぶべきよ。

 ま、私がこの人形を欲しいのは、平和の象徴だからだとか本当にこの人形そのものを気に入ったからと架でなく、貴方をからかうためってのが大きいんだけどね、ラーイルちゃん?
20161221 ... 星がたくさんある理由 《title:as far as I know / 黄道十二宮》
 ユニットプロフィールの女性は嬢だと言い張る夢豚の鑑です。