ちょこまかと動きネコのように笑ううちのマネージャーは、音駒の名前にぴったりだと思う。
クロが「こいつ今日からマネージャー」と言ってつれてきた時は、俺も彼女とも幼馴染みといえるけど不機嫌そうな顔を見せるもんだから正直取っつきにくかった。
それに異性の年上幼馴染みなんて、ちっちゃいときは遊んでも段々と疎遠になっていくのがセオリーで、漏れなく俺も彼女と話したのはクロがマネージャーとしてつれてくるまで長いこと話していなかった。
「ネコはさぁ、なんでマネージャーやろうと思ったの?」
「おじいちゃんがお小遣いアップしてくれるっていったから」
昔みたいにとまではいかなくても、それなりに話すようになった頃ネコに尋ねると、あっけらかんと現金な言葉をはいた。ちなみに彼女は猫又先生の孫で名字が猫又だったため、名前で呼ぶよりも名字からずっとネコと呼んできた。今ではみんな監督がいる前で猫又と呼び捨てにできないからか、猫又さん、だとかネコだとか呼んでいる。まぁクロは時々別の呼び方してるみたいだけど。
「それだけ?」
「それだけ。だって私、バレーは中学までって決めてたんだもん」
転がっているボールを両手に抱えながら猫のように笑う彼女が何を考えているかわからない。
「ふぅん」
「えー研磨が聞いてきたのに興味無さそう」
「だってクロが誘ったからマネすることにしたんだと思ったし」
「まぁ、それもある」
あるんだ。ネコの拾い損ねたボールを回収し、バスケットへ片付けてやれば「お疲れのところありがとうございます」なんて殊勝に見せかけた声が聞こえてくる。
あのね、流石の俺だってネコが内心こき使ってやろラッキーと思ってそうなことぐらいわかるからね。
「ネコはクロといつくっつくの」
「あらやだ研磨くんったらお年頃?」
「クロの牽制、見てて面倒なんだけど」
からかうような声をあげるネコに態とらしく呆れた視線を向ける。いまこうやってネコと話しているのが俺だからクロは離れたところでモップがけをしているけど、これが他の男だったらすぐさま飛んで来るかもしくは明日の練習で多く走らされる。
可哀想にと思うけど、猫又先生は孫に変な虫をつけたくないんだかその行為に対してなにも言わないので誰も文句が言えない状態だ。まぁ自分の教え子を虫だと思わないでほしいとは思う。
「えーそれは向こうに聞いてよ。私よくわかんないもーん」
うんざりした声とは裏腹にニンマリと笑みを浮かべるこの幼馴染みと、食えないやつと評価されるクロ。
くっついたらくっついたで面倒くさそうな二人だけど、くっつかないのも端から見てて鬱陶しい。
「どうする研磨クン、恋のキューピッドやる?」
「やんない」
即答してやればネコは「そりゃそうか」とあっさり撤回する。この気分屋すぎるところちょっと苦手だ。別に嫌いじゃないけどさぁ。