「えっちゃんお昼お弁当なの? しかもそれっぽっち? 足りる?」
ランチバックからお弁当を取り出し、いただきます。
休日の部活の場合、寮のご厚意に甘えて、寮生だけでなく通いの部員やマネージャーも食堂で一緒に食堂のご飯を食べさせてもらっていた。
現に近くで食べている幸子たちは食堂で出してもらったご飯を食べており、普段ならそうするんだけどねぇ……と苦笑いを漏らせば、御幸は「少なくね?」と私のお弁当箱を覗き混んできた。
「うるさいなぁ。別に良いのよ足りるし」
「でもいつもより少なくね? 肉食えよ肉」
「うわちょっと自分の分は自分で食べなさいよ! 足さなくて良いから!」
「俺どうせお代わりするし。良いから良いから」
「いやその気遣いは不要」
当たり前のように隣に座り、自分の肉を押し付けてきた御幸へ、手に持っていた箸で丁重にお返しする。
「なに、食欲ないの?」
「あーそんなとこそんなとこ。だから気にしないで」
突然お弁当を持ってきた理由はあえて言わず、適当に頷き食べ始めれば、ふうん、と納得していない様子ながら御幸も昼食を取り始めた。理由を知っている幸子や唯は、まるで御愁傷様と言うようにこちらを見るが、助けてはくれない。まぁなにも言わないでくれるのでそれで構わないことにしよう。うん。
「体調悪いのか?」
「いやそういうわけじゃあないよ」
「じゃあ」「食いません」
くいぎみに答えれば、唇を尖らせ「ちゃんのいけず〜」何て言いだす始末。可愛くない可愛くない。
「ほら早く食べないと午後練間に合わないんじゃないの?」
「食べるけどよぉ」
納得していない様子の御幸を促せば、渋々自分の食事に手をつけ始める。
デリカシーのないこの男は、理由を話せば何かしらいってくるに決まってるのだ。絶対話さないし食事も必要以上に食べるつもりはない。ちゃんと栄養面やカロリーを考えて作ってきているのだから放っておいてくれ。そんなことを思いながらご飯を食べ進めれば、ちくちくと視線が突き刺さる気がした。
「…………何よぉ」
「…………別に太ってないと思うぜ?」
バキッと手のなかで変な音が聞こえた。御幸と二人揃って私の手元に視線をうつせば、箸が見るも無惨な状態に変わっていた。
「えっ当たり……?」
「…………うるさい!」
ピシャリと怒鳴り付けてから席を立ち、食堂の箸を借りに行く。おばちゃんからは、「あらあら綺麗に折れちゃったわね。棄てておこうか?」と言ってもらえたので、ありがたく無惨な状態の箸をお渡しする。
そして席へ戻れば、なぜか返したはずの肉が私の弁当箱に入っていて。
「かーずーやー!」
「ちゃん怒ると俺のこと名前で呼ぶよね」
「私要らないって言ったじゃん!」
「太ってないから良いじゃん。食べなよ」
ニヤニヤと笑う御幸に米神の辺りが痛む。
「何、誰かから言われたの?」
それ前提で話を進められて非常に遺憾だが、太ったのは事実なので諦める。行儀悪くうつされた肉を箸でつつきながら、「べっつにぃ」と返せば、
「じゃあ良いじゃん。食べな食べな」
と気楽な様子で言葉が帰ってくる始末。
「だって自分のベスト体重より三キロも太ったのよ! 間違いなくここのご飯が美味しいからだわ」
「おばちゃん喜ぶぜ〜」
「そういうことじゃなくてぇ」
今度は逆に私が唇を尖らせながら文句を言えば、
「俺はちゃんが美味しくご飯食べてるの好きだから、ちゃんと食べてほしいなぁ」
と何気なしに返された。
そう言われてしまうとなにも言えなくなってしまうのが乙女心というやつで。はぁ、とため息をひとつ漏らし、つついていた肉を口に運ぶ。くっ……美味しい……悔しいけど本当に美味しいのよ……! 美味しいものはカロリーが高くて本当に嫌になる!
不承不承ながら残りのお弁当を食べ進めれば、「もうちょっと食べる?」と隣から声がかかった。
「……おかずがなくなって白米だけで泣きながらご飯食べることになっちまえ」
可愛くない返しをすれば、それが了承の言葉だとしっかり理解した御幸は、ハッハッハと高笑いをしながら追加でおかずをどんどん盛ってきた。
悔しいことに、結局私はこの男の言葉に弱いのである。さぁしっかり食べて午後練も頑張ろうじゃないか。