「ねえ、知ってた? 紅茶のティーバッグで入れた紅茶って、冷めてもまずくならないのよ。私今初めて知ったんだけどびっくりしちゃった」
は大きめのマグに並々と注がれた紅茶を見ながら、まるでひとりごとを言うかのように言葉を紡いだ。
しかしこのの自室にいるのは彼女一人ではなかった。
「すみませんでした……」
「え、なぁに? なんか言った? もうびっくり知っちゃったのよ。私スティックコーヒーばかり飲んでたんだけどね、そっちだと冷めるとすぐにまずくなっちゃうのに、紅茶だと冷めても問題ないのよ」
土下座しながら言った御幸の謝罪はには届かない。そのままソファで足を組みなおすと、カップを揺らし、紅茶の水面に波を作る。
「あぁ、でももうすぐ一杯なくなりそうだから追加しないとね。もう、来ないと思ってたからのんびり本を読んでたんだけどすっかり冷めちゃったのよ。紅茶も」
最後の言葉に御幸は引き攣った悲鳴を上げそうになった。
―――冷めちゃったのよ。紅茶「も」
そのほかに冷めたのは一体何だというのだ。
「おかげで冷めたティーバッグ紅茶の美味しさを知ることができたんだけどねぇ」
うふふと笑うの瞳には御幸の姿などうつっていない。さてそろそろお湯を沸かそうかしらね、なんて考えながらマグカップの淵を撫でた。
「寝坊して! 申し訳! ありませんでしたッッッ!!」
「うふふ、やぁね、全然聞こえなぁい。それでね、次はレモンを浮かべたレモンティーは冷めてもまずくならないのか検討しようと思ってるの。ほんと楽しみだわぁ」
カエルがつぶれるように、御幸は床の上に土下座姿勢のまま倒れた。
はそれをついと眺めると、
(折角のデートだってのに寝坊してんじゃないわよまったく)
と内心溜息を零すのだった。
楽しみにしていた分、御幸へのお仕置きは長引きそうだ。