※ 普段以上に頭のおかしい話です。



「部活動対抗リレー……っすか?」

 部活が終わったばかりというのに「球を受けてくれ!」と正捕手に詰め寄っていった一年投手は、正捕手こと御幸が言った一言に首をかしげた。しめしめ話を逸らせたぞと言わんばかりに満足そうに肯いてから「あぁそうだ」とすぐさま真面目くさった顔をする御幸。それを偶々聞いてしまった私はというとその御幸の表情とは対照的に顔面が死んでる気がしてならない。正直無理ないと思うんですけどね! 何を言い出すかと思えば全くこの男は!!
 高校に入学してから思い出したくない思い出堂々一位を飾る体育祭部活動対抗リレー。体育祭自体はものすごぉく楽しかったのよ。障害物リレー(の応援)とか、パン食い競争(の応援)とか。チーム分けで一緒になった哲さんや東さんの学ラン姿がなかなか様になってて面白かったし。あとは応援合戦でめちゃくちゃスピッツ先輩こと純さんが吠えてたのも思わずビデオカメラ持ってきて録画しちゃうぐらい楽しかったし。それからチーム対抗リレーでまさかの陸上部に大勝利するという伝説を作り上げたレジェンドチーター倉持には正直まじな感動しかできなかった。
 だけど部活動対抗リレー。お前だけはダメだ。ほんとに。まじで。恐らく数年の時を経て話すのであれば「あーそんなこともあったね」と談笑できるかもしれないけれど、去年の今年では羞恥やら謎の苛立ちからにやにやにまにま笑いながら一年に話して聞かせる御幸に殺意しかわかない。お前を殺して私も死ぬみたいな状況と言えば分りやすいだろうか。むしろお前を殺して聞いてたやつら全員も殺してそのうえで私も死ぬ!!!てかんじ。惨殺、皆殺し。そこまで考えたところでどういうわけか一年二人が同時に肩を震わせた。いやだ仲良いのね。でもなんで? 小さく首を傾げれば呆れたように御幸がこちらを向いた。

さん全部声に出てますよ」

 敬語でそう言った御幸に一年二人がこれまた仲良く同時に首を縦にぶんぶん音がなるほど強く振る。あらやだ私ったら、おほほと上品ぶって笑うも三人の顔色は優れない。なによ。なによなによ。

「だって仕方ないじゃないあの時のこと正直全く思い出したくないんだから」
「そうかぁ? 結構楽しかったと思うけど♡」
「そりゃあんただけよ……」

 顔を顰め言い切るも御幸は「はっはっは」と笑うばかりで堪えた様子は全く見られない。うわぁもうこの男やだぁ。泣きそうになっていればky男という代名詞を持つ沢村が「いったい何をしたんすか!?」ときらきらとした表情で尋ねてきた。ついでに降谷まで「知りたいです」だなんて言ってくるもんだから調子に乗った御幸が「知りたいかぁ、そうかぁ」とにやにやし始めやがりまして。

「マジで死んで……」

 今度ははっきり自分の意志で言い切るも、あまりの覇気のなさに三人は逆にヒートアップしてしまう。てめぇらその無駄なオーラ今まったく必要ないでしょうが……!!

「でもたぶん当事者が話さないと、尾びれ背びれその他諸々の引っ付いた盛りの良い話を聞かされることになると思うぜ」
「うわぁ……」

 それならまだ自分で話した方がいいのかもしれない。どちらかと言えばその盛りの良い話こそが私の嫌な思い出でもあるんだし。箝口令を敷いたところで全校に広まってしまっている話をどうにかすることなどさすがの私も不可能だ。
 でも私の口からはいいたくない……! その懇願に御幸は快く「俺が話すよ」と言ってくれたのだが、なんだか丸め込まれた気がしてならないのだけど気のせいかしら。―――気のせいにしておいた方が心の平穏よね。



 部活動対抗リレーってのは、その名前の通り各部活動毎に行われる体育祭のおまけ行事でさ。足の速さ以上にパフォーマンスで競うもんなんだよ。
 で、どういうわけか去年のリレーは俺とが出ることになって、面白いことなんて正直思いつかなかったし二人で走ればいいかってことになったんだ。


 まー私としてはその『どういうわけか』ってところが気になるんだけどね。
 口をはさめば「まぁまぁ」となだめられてしまう。


 俺はユニフォームを着ることですんなり話はついたんだけど、に何を着せるかで先輩たちが盛り上がってよ。一緒に走る俺口を挟む余地なし! いやぁあれは笑った。は「ジャージでよくないですか……」ってずっと言ってたっけ。聞いてもらえなかったけど!
 結局決まったのは前日の夜の練習の後で、俺らの二個上―――そうそう東さんたちの学年の先輩マネが出した「チアのかっこう」に決まったんだよ。選手を応援する彼女みたいなやつで。


 リア充めが! とかって意見が出なかったのはどうして? と当時聞いたところ「うちのマネージャーなんだぜって自慢したかったらしい」との回答が返ってきたのはいい思い出……でもないわね。めちゃくちゃ恥ずかしかったし。


 そして当日、リレーの時間になって周りを見ると、いやぁびっくりするぐらい殺気立った運動部のおにいさまがたに囲まれてよ。「リア充なんぞに負けてたまるか……!」って言われちゃったもんだからこりゃあやべえってなってな。
 まあ一番やばかったのはその集団に向かって「はァん? 私たちだって負けるつもりありませんけど?」って恥ずかしさのあまり変な方向に振り切れたちゃんなんだけどな。満面の笑みで「絶対勝つわよここまできて負けるなんて恥ずかしすぎるもの」って言われた時にはあーこれ負けると同時に俺の死亡が確定するなって思ったわ。


「まぁリレーは負けたけどね」
「二人三脚こそが俺らの敗因」
「二人以上で走る場合は体のどこかが触れ合っていなければならないってルールだったんだからしかたないって言ったじゃない」
「そう。殺されなかったことだけが救いだった」


 だってこんなやって話してるけど正直俺も恥ずかしかったもん。

 ならば話すなと言いたくなるようなことを言ってのけた御幸に再び殺意。やっぱあそこで殺しておくべきだったか。今日のちゃん物騒だなぁ。

「あの、そんなに恥ずかしい話じゃないんじゃ……」

 恐る恐る聞いてきた降谷に「続きがあってねぇ……」と御幸の話を引き継いで私が話し始める。

「単純なリレーでの一位は他の部活に奪われちゃったんだけど、部活動対抗リレーって『パフォーマンス賞』ってのがあったのよ」
「俺たちがとったことで『ベストカップル賞』っていう別名がついちまったけどな」

 話終えると、聞くまではノリノリだったくせに一年二人は、はっきりと同情を顔に浮かべていた。
 そうこれこそが恥ずかしい話である。今だったら別に気にしないのよ。でも付き合ってないころにとったもんだから周りにからかわれるわ妬まれるわでほんともう……もう……!! 御幸と付き合うことになってからも、その記憶があるせいでどうにも恥ずかしさが変わらないというわけだ。たぶんその恥ずかしさはユニフォームとチアのかっこうだったはずが何故かタキシードとウェディングドレスで話が広まっていたことからきていると思うんだけどね。なんで部活動対抗リレーでそんなかっこうになるのよ、だとか、なんで実物見てたはずなのにそんな風に話が広まってるのよ、だとか、兎に角もーおかしいったらありゃしない。ほかにも耳をふさぎたくなるような尾びれ背びれがついているものだからほんとに意味が分からない。

 そこまで思い出したところで、あれこれやっぱ話すべきじゃないことだったのでは……という思いが頭に浮かぶが時すでに遅し。やり直せることならリレーの始まるまえ……いやむしろリレーの選手を決めるところまで戻りたい。
 ほんと恥ずかしさで死ねる。あれを全校の前でやって尚且つ自分もノリノリだったなんてことを考えると恥ずかしさで死ねる。

「今年はどうなるんだろうな」

 あれだけ面白いことをしたんだから今年もやらされるかもな―――って、うそでしょ。

「や今年はバッテリーで出なさいな。御幸を取り合うピッチャー軍団みたいな感じで」
「取り合うならクリス先輩が良いです!!」
「……ごめん御幸」
「謝るなよ辛いから……てかえ、沢村それマジで言ってんの?」

 満面の笑みで言い切った沢村に少しショックを受ける御幸の図というのは何とも気持ちがいい。先程までの殺意がほんの少しばかり和らいだ。数値にしてほんの10%ほど。ほぼ和らいでないわね!

 さてこの苛立ちをどこにぶつけるべきか……。
 少し悩んだところでいいことを思いついてしまった。今年もやらされるな、なんて笑顔で言うってことはどうせ私の知らないところでほぼ確定してるんでしょ。だったら、去年以上に盛り上がらせてあげるわよ。
 にんまり笑えばぶるりと御幸が肩を震わせる。

「なに、なにか企んでんの?」
「いーえ企んでなんかいないわ」

 ただ思いついちゃっただけよとは心の中に留めておくことにしたけど別にいいわよね。



 そしてそんな話をしてから暫く経って体育祭当日。部活動対抗リレーの待機所付近には、顔面蒼白で「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」と謝り続けるチアガールのかっこうをした御幸と、倉持・沢村の五号室ペアを筆頭としそれを爆笑しながら写真に収める野球部員。それから御どや顔で御幸の試合用ユニフォームを身に纏う私がいたとかいないとか。

「いっそ殺せ……」
「それ去年の私じゃん」
「あぁ……そう……」

 顔を覆いしゃがみ込む御幸の姿を見ていたらさすがにかわいそうになって―――はこない。どうしてだろうと悩むも全く理由が思い浮かばない。私もしかしてSっ気あるのかしら。
 うーんと首を傾げていれば「参加選手は位置についてください」とアナウンスが入る。詳しいことは後から考えればいいか。そう考えていれば、突然御幸ががばっと立ち上がり。

「去年のの気持ちは分かった。その結果俺も吹っ切れた」
「……は?」

 嫌な予感がする。てかこれ、かわいそうにならないのってSっ気があるからでなく本能でこの後起こることがわかっていたからなんじゃ……。
 残念ながら気付いた時にはすでに遅かった。

、狙うは優勝だ。優勝を狙い打つぞ」

 私の肩を抱き決め台詞を言うんだけど、全く目が笑っていない。あー去年の私もこんなだったのかしらね。

 選手をお姫様抱っこするチアガール(ボーイ)という図でびっくりするぐらいぶっちぎりで優勝した私たち―――というか御幸は、同時にパフォーマンス賞・審査員特別賞など部活動対抗リレーに関する賞を総なめにし、伝説となった。

 後に倉持は「あそこまで真剣な表情で走られるといっそ笑えない。野球部全員真顔だった」と述べ、それを聞いた私は「あー失敗した」と頭を抱えたとかいないとか。一緒に御幸も「なんで俺あんなことができたんだろう……」って頭抱えてたもんだからもうどうしようもない。
 だけどまぁ楽しかったか楽しくなかったかの二択で聞かれたら「いい思い出にはなった」と答えるけどね。
20160906 ... それを幸福と呼ぶ自由を与えよう 《title:as far as I know / 黄道十二宮》
 勢いに任せすぎてて話ぐっちゃぐちゃになった気がするので本当にすみませんでした……(土下座)てか普通にこれはひどい……読み返せない絶対……ッッッ
 気付いたら消えてたなんてこともあり得ますがそこはあの……許して……!