お、珍しい。
 授業も終わりさて部活に行くかと思い隣の席のを見れば、小さな寝息をたてて彼女は眠っていた。パラパラと部活だのバイトだの様々な理由で教室をあとにするものたちを眺め、再びに視線を向けた。
 彼女は俺の方を向くように眠っており、綺麗な寝顔が穏やかな表情を見せてくれる。長いまつげに縁取られた瞳は開く気配を見せず、これ俺じゃなかったら相当不味いんじゃねぇかと思ってしまった。正直なところ俺でもやばい。
 どうしたものかと悩みながらも結局彼女から目を逸らすことができずじっと見つめる。そうこうしているうちに倉持が近付いてきたのだが、が机に伏せ俺がそれを眺めてという状況を把握するなり、呆れたように「部活、遅れんなよ」と短く告げ教室を出ていった。あいつはたまに野生の勘が働いているように思う。まー、チーターだしな。後輩がよく言う彼の代名詞を思いながら、しかしやっぱりあいつ俺たちが付き合ってること知ってんじゃねぇかと考えてしまう。部員に知られたって面倒なだけだし黙っててもいいよね、とはどちらからともなく出た意見。モテる人間の二股三股のための常套句などではなく本心からの言葉で、だから誰も知らないことではあるのだが、同じクラスであるが故かはたまた野生児だからか倉持は騙せていないのかもしれない。だがあいつなら不必要に騒ぎ立てるやつでもない。とはいえ付き合ってることを大っぴらにしたときには盛大にからかってくるのだろうなと言うことが容易に分かり、どのような思いでいればいいのか悩ましい。

 目蓋がぴくりと小さく動いた。直後ゆっくりと開いた瞳は焦点が合わず、寝惚けてんなぁとなんだか微笑ましい。何度か瞬きを繰り返したところで漸く脳が覚醒したのか、「なんじ……?」と吐息混じりの掠れた声を発した。
 お前、それ相当エロいんですけど。他のやつらに聞かれていないか素早く周囲を見渡すもどうやら気付かれていないようなので小さく安堵。

「もうすぐ部活だよ。支度して早く行こう」

 立ち上がるまでもなく手の届く距離というのはなんともむず痒く、授業中に手を伸ばしたくなることも多々ある。だが今はそんなことを気にせず手を伸ばせる。顔にかかっていた髪を優しくのけてやれば、へにゃりとわらい「うん」と頷いた。その安心しきった笑みにハートが撃たれたような気がして。あーもう。あーもう! 反則! やっぱりちゃんは俺のですって言いたくなるだろ!

 年相応の照れを誤魔化すようにの頭を少し強引に撫でてやれば、目を白黒させながらも嬉しそうに笑うもんだから、俺は。
20160815 ... お隣さん 《title:OSG