「お前、流石にこんな時間からアイスってのはやばくない?」

 突然聞こえた声に肩を震わせれば、声の持ち主こと御幸は悪戯っ子のような笑みで私を見ていた。
 なんだあんたか、と肩を撫で下ろしながらも自分の手の中にある棒アイスに視線を落とす。だって、食べたくなったんだもん。
 御幸の方はどうやらロードワークの帰りのようで、首からタオルを下げ額にはうっすらと汗が滲んでいた。

「つーか、出掛けるならそれで連絡寄越せよ。なんのために送ったと思ってんの」

 呆れたように笑いながら、御幸は私の横を通って冷蔵庫に手をかけた。そこからミネラルウォーターを出したかと思うと再び私の横を通り、その際私のアイスを奪っていった。

「えっあちょっと」
「他は?」
「いやないけど……」

 その言葉を聞くなり御幸はレジにならんでしまった。夜のコンビニは意外と人が少なく、私が戸惑っているうちにあっという間に御幸はお会計を終わらせてきてしまった。
 お金……とあわてて小銭を出そうとするも、ひらひらと手を降りそのままコンビニから出てしまった。慌てて追いかければ何が面白いんだかくつくつと笑われてしまう始末。もう、なんなのよ!

「はい」

 笑いながら渡されたアイスに、お金を払うべきか一瞬悩み、そのままアイスを受け取った。どうせ受け取らないだろうしな、「ありがとう……」と小さくお礼を言えば、満足げにうなずかれてしまった。
 私がパッケージを開けるのを見ていた御幸だったが、突然「お前さぁ」と少し厳しい声を発した。何事かと思いアイスをくわえながらそちらを向けば、少しばかり怒ったような表情を見せた。こんなに表情がなわるなんて珍しいな、と思っていれば、呆れたように溜め息をつかれてしまった。

「え、なに?」
「さっきもいったけど、こんな夜中に一人で出てくんなよな。それか家につく前にコンビニ寄るっていってくれ」

 練習後私を家まで送るのは、一年の頃から自然と御幸の役目となっていた。今日も日常として彼に家まで送ってもらい、シャワーを浴びて軽い夕食をとったタイミングでアイスが食べたくなってしまった。

「迷惑と思ってんならそんなことないからな。俺、ちゃんのためなら何度でも行くよ」

 真剣なのはそこまで。一気に軽い雰囲気でそう言いのけた御幸に今度は私の方が溜め息をつきたくなった。

 じゃあ今度は呼ぶね。
 隣に並べば御幸は自然と私の家に向かう方向へ歩き出していた。
20160811 ... アイスクリーム 《title:OSG